chapt.5 あの篠突く雨の音を覚えている。私を絶望と呼んだあの人の、強張った背中を覚えている。一人のときはいつも体当たりをしながら開けていた防音扉、私は彼の細い腕がそれを支える瞬間が好きだった。だけどきっともうこれが最後だ。焼きつけろ。焼きつけろ、焼きつけろ。山茶花梅雨とあなたが教えてくれたこの雨が、扉の閉まる音すらもかき消してくれれば良かった。あの瞬間ばかりを思い出す。息を吹き返した記憶の、あの、絶望的な瞬間だけを、私は今も思い出す。 PREV BACK NEXT