星屑の街に戻ってからも、カトルくんはすぐには目を覚まさなかった。
「四天刃の影響だろうねぇ。でもま、大丈夫だよ」
そう言うシエテさんの横顔は、まるで本当に血の繋がった家族に向けるように優しい。
「この感じだと今日明日で目を覚ますとは思うよ。外傷は見た目ほど酷くなかったし、それに曲がりなりにも、カトルくんは立派な十天衆の一員なんだからね」
だからさ、ちゃんもそんな顔しないで。ぽんと頭を叩かれてびっくりした。頬が強張っていたことを、指摘されるまで気がつかなかったのだ。「はい」と呟いた声は、思ったよりもずっと震えて、小さい。
「そのうち子供たちもカトルを心配してやって来るだろうし、グランちゃんだって戻るでしょ。ちゃん、それまでカトルくんの傍についていてくれないかな?」
「えっ?」
「エッセルもほら、その怪我、いつまでもそのままにしてたら化膿するよ~? 俺がちゃちゃっと手当してあげるから、下に行こう」
シエテさんに話を振られたエッセルさんは、一瞬考えたように目線を彷徨わせた後に曖昧に頷いた。
「…………ん、そうだね。、カトルをよろしく」
「あ、あの」
呼びかけも虚しく、二人は私を置いて部屋を出て行ってしまう。閉められた扉の先で、シエテさんの「止血のためとは言え、マント、派手にやっちゃったねえ~」なんていう、どこか嘆くような声が聞こえたけれど、それは階段を降りる音と共に遠ざかっていった。二人が私に気遣ってくれたのは明らかで、私は残された部屋で、細く長い息を吐いた。
カトルくんと二人になった私は、座ったままの姿勢で幾らかいたのだけれど、どうしても落ち着かず、枕元の丸椅子からそうっと立ち上がる。立ったは良いけれど今度はどうにも手持ち無沙汰だ。カトルくんの自室はグランサイファーで彼に与えられている個室と違って、随分と物が多かった。木製の小さな宝石箱、木の実で出来た首飾り、細々としたそれらは子供たちからもらったものらしい。とは言えそれらを勝手に触ることも勿論できず、私は結局、部屋のカーテンを開けることにした。この家は緩やかな階段の上に建っていたから、他の家々の屋根が沈んでいるように見える。隙間から漏れる冷たい風に、頭の芯まで冷えたような気になった。空は既に白々としていて、屋根と屋根の間から光の筋が漏れ始めている。朝だ。それだけで、胸がいっぱいになってしまう。
「朝だよ、カトルくん」
無意識に口にしていた。朝だよ。あんなに長い夜だったけど、ちゃんと朝になったよ。
カトルくんは、シエテさんの言う通り、見た目ほど深刻な怪我を負ってはいなかったらしい。血や泥の拭われた顔はすっきりとしていたけれど、それでも、彼がグランサイファーを降りたそのときよりかは少し痩せたように思えた。
長い睫毛の先を見る。ぴくりとも動かない瞼に心配になって、そっとその口元に耳を近づけた。微かな呼吸を感じるまで、生きた心地がしなかった。
床にしゃがみこんでベッドに両手を置く。こんなに近くにいるんだ、って改めて思うと、嬉しさと安堵でぐちゃぐちゃになってしまう。
「カトルくん」
包帯の巻かれた手の甲をそっと撫でても、いつもより低い温度があるだけだ。
だけど、ぎゅうとその左手を握ったそのとき、私の自分の手をそっと握り返されたような気がした。咄嗟に顔をあげて彼の姿を見ても、カトルくんの様子は寸分たりとも変わっていない。手だって、私が離せばそれは呆気なく、するりと離れてしまう。
「あれ……?」
気のせいだったのだろうか。カトルくんは今も、その胸を静かに上下させて眠り続けている。