師走とは良く言ったもので、定期テストが終わってしまうと十二月は駆け足で過ぎ去った。
 そう感じるのも、イベントごとがたくさん控えているせいなのかもしれない。クリスマスは勿論、年末年始もあるし。そもそも冬休みがある分学校に通う日数が少ないから、余計日々が濃縮されているように思える気がする。日が短いっていうのも、一日一日が短く感じられる理由の一つではあるんだろうけど。
 クリスマスと言えば、皆瀬さんたちはクリスマスパーティをするのに、クラス中に声をかけていた。皆瀬さんのおうちで集まって、ホームパーティをすることにしたんだそうだ。冬休みを目前に控えたある日の休み時間、皆瀬さんに「さんはどう? 来られそう?」って尋ねられて、言葉に詰まってしまった。だって、教えてもらったパーティの日がイブ当日だったから。



「イブ……! ごめんなさい。この日はちょっと用事があって……」

「あー、そうだよねえ~」

「ごめんね、本当はめちゃくちゃ行きたかったんだけど……」

「ううん。残念だけど仕方ないよ。……ひょっとして、彼氏とデート?」

「んっ! 彼、いや、ちが……」



 咄嗟に嘘を吐くって、どうしてこう忙しいんだろう。玲王くんのお手本は頭の中にあったはずなのに、「家族と過ごすの」っていう言葉がどうしても出てこない。ごにゃごにゃと口の中で呟く私に、皆瀬さんは笑って、「じゃあいつか話、聞かせてもらっちゃお~」って、私にミルク味の飴をくれると、そのままグループのところに戻っていった。皆瀬さんて、優しい。私が慌てているのを見て、空気を読んでくれたみたい。
 後で聞いたところによると、パーティに出席するために都合がつけられたのはクラスの三分の一に満たなかったらしい。リサちゃんは彼氏とデートだし、夏帆ちゃんは中学のときの同級生と会うから行けないってことだから、イブに用事がある人って案外多いみたいだ。
 広いリビングに飾られた、大きなクリスマスツリー。持ち寄った料理やケーキを取り分けて、皆でプレゼント交換もするんだろうな。そういうのが眼前に浮かぶように想像できるのは、「ホームパーティ」に馴染みがありすぎるからだ。「恋人と過ごすクリスマス」より、よっぽど。
 イブが近づくにつれて、私はそれはもうそわそわしていた。ちっとも落ち着かなかった。だって恋人と過ごすクリスマスって、私にとっては異次元の話だ。ドラマや漫画なんかで色々勉強させて頂いている身ではあるけれど、それがどこまで玲王くんと自分に当てはまるのかは判然としないし、玲王くんはクリスマスのこと、「イブは空けとけ」って言って以降、ちっとも話題にあげようとしない。
 サプライズがあるとか、何かを隠しているとか、そういうわけではないんだと思う。ただここ最近サッカーの練習が本格的になっているみたいで、夜の通話がこれまでよりも格段に減っているのだ。だから必然、クリスマスの話が聞けていない。勿論、それに文句があるわけではないんだけど。
 学校では、玲王くんとおしゃべりすることなんてなかなかない。学級委員の定例会議はこの間で終わってしまったし、席だって近いわけじゃない。私の「周囲にばれたくない」っていう思いを汲んでくれる玲王くんは、学校では必要最低限の会話しか、私としようとしない。
 一緒に帰ったのも、いつが最後だろう。(元々定期的に一緒に帰る約束はしていたけれど、最近は玲王くんが忙しそうにしているから、私から遠慮していたのだ。ちょっと淋しいけれど仕方が無い。)
そんなんだったから、私もなかなか探りを入れることができなかった。……なんのって、玲王くんにあげるためのプレゼントに関して。
 玲王くんへのプレゼント選びは、難航を極めた。迷走しすぎて、サッカーグラウンドの描かれたタオルを注文しそうになったくらいだ。いやそれは絶対おかしいって気がついて、直前になってカートから削除したけれど。だから今私のスマホの検索履歴を見たら、迷走の痕跡でとんでもないことになっているに違いない。怖いから見ないけれど。
 それでも何とかプレゼントを選んで、毎夜のファッションショーを経て当日の服装も決め、お母さんにもイブの日がデートである旨を伝え(お父さんには内緒にしてもらった。私は未だに、お父さんに玲王くんとお付き合いしていることを話せていないのだ。)、当日のコンディションを最高にしておくため、髪や肌も整えた。風邪をひいたりしないよう、身体を温め、水分を取ってたくさん眠った。玲王くんと二人で過ごす初めてのクリスマスは、やっぱりどう想像したって特別だった。特別だったから、せめて今できる最大限の努力くらいはしておきたかったのだ。
 気を抜くと、ため息が漏れてしまって困る。だけどそれはどう考えたって、楽しみで楽しみで仕方ない、って意味のため息だった。








 今年のイブは日曜日で、金曜日の終業式が終わってしまえば、後はもうその日を待つばかりだった。夏帆ちゃんたちとはクリスマスの後、二十六日に映画に行く約束をして、学校の前で別れる。玲王くんの乗るリムジンは、もうとっくの昔に駐車場を出て行っている。
 デート目前ともなればどんなに忙しくても玲王くんも事前に連絡をくれるもので、その夜、「二十四日の夕方迎えに行くわ」っていうメッセージが送られて来た。私はそれで初めて、夕方かあ、って想像を巡らせたのだ。会う時間帯がはっきりするだけで、私の妄想にもはっきりと色がついた。脳内の玲王くんは、とうに暮れた空を背負っている。
 夕方ってことは、玲王くんの誕生日のときにしたような遠出はないだろう。近場でお食事とかするのかな? どこに行くにしても、イブで日曜日なんてきっと物凄く混雑するだろうから、うっかり誰かと出くわしてもいいように相応の準備をしたほうがいい……のかもしれない。いつでも顔を隠せるよう、大きなマフラーをしておくとか、帽子を目深に被っておくとか。いっそ最初から伊達眼鏡でもかけておくのはどうだろう。――でもそれだと、折角のデートなのに気が散っちゃうな。
 楽しみが九割と、不安が一割。だってイブはもう明後日なのだ。そう思ったら妙に緊張してしまった。ともすると震えそうになる指先で、「わかった! 楽しみにしてます!」って返事を打つ。ついでに、「よろしくね」って犬がお辞儀をしているスタンプも。既読はすぐについたけれど、返事はなかった。



「……うう、タマ~!」



 落ち着かなくて、クッションの傍で転がっていたタマの隣に倒れ込む。タマのお腹に手を当てて、わしゃわしゃと撫でる。最近のタマは、昼でも夜でもよく寝ている。
 タマはびくりと身体を反応させたけれど、迷惑そうにこちらを一瞥した後、やがて私にお尻を向けて、またうとうとと目を閉じてしまった。
 タマの白い毛並みに顔を埋めて、細くため息を吐く。そうしながら、私は二日後に迫った玲王くんとのクリスマスデートを、ただただ想像することしかできずにいる。



「寒いっぽいから、ちゃんとあったかい格好してこいよ?」



 そんなメッセージが私の送ったスタンプから十分後に届くことになるんだけど、私がそれに気がつくのは、もう少し後のことだ。


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