双子と言えど男女である時点で一卵性にはそうそう成り得ない。だからぼくらが並んで歩いていたところで、ぼくらを知りさえしなければ、姉弟であるとはそう簡単には思いつかないだろう。実際ぼくは姉さんと向かい合ったところで、鏡を見ているみたいだ、なんて感覚に陥ったことは一度たりともない。ぼくたちは似ていない。勿論、赤の他人同士よりは似ているけれど。
 姉さんはぼくと違って、穏やかな人だ。こんな風な生まれでなければ、きっと生来生まれ持った性格のまま、大人しく、物静かで、争いを好まぬ少女として、細く頼りない手足でバランスを取りながら歩いていただろう。ぼくはその事実から目を伏せている。過程の話ほど無意味なものはない。腹も膨れなければ、暖も取れないから。
 ぼくたちはスラム街に放り投げられて、不釣り合いな皮を被った。今ではその皮はぼくの皮膚に溶けて張り付いて、継ぎ接ぎが見えなくなってしまったから、どこまでが本物だったのか分からない。姉さんにはこんな思いをしてほしくなかったから、ぼくは姉さんの分まで汚れを被った。力をつけて、この手でぼくたちからすべてを奪おうとする連中の息の根を止めて。ナイフを握って、背後を取って、背中を蹴り、奪って、奪われる前に、これは立派な正当防衛だ。そうしてでしか生きられなかったんだから。
 飛び散った他人の血液の色が灰色に見える様になった頃には、ぼくたちはもうスラム街で最強を名乗るに値した。自分たち以外の、何もかもが敵に見えた。
 頭目が現れるまでずっと。








「シエテ。カトルはどうだった?」



 カトルが星屑の街を離れてから、シエテは以前よりも頻繁に街を訪れてくれるようになっていた。
 カトルの不在はマフィアたちを増長させる、その予想は粗方当たっていたから、正直十天衆のリーダーっていう肩書きを持ったシエテの存在はそれだけで圧力になって、助かっている。おかげで揉め事や摩擦はあるけれど、大きな問題は今のところ起こっていない。
 カトルは今、とある騎空団に身を置いている。時折休暇を取って帰ってきてくれるけれど、回数を重ねるごとにその顔付きが、彼の生来のものに近くなっている気がするから、私は姉として、とても嬉しい。きっと、楽しいんだろう。そう思っている。
 先日その騎空団に顔を出してきたと言うシエテは、私の言葉に「う~ん」と間延びした声で答える。その目じりは、どこまでも優しい。



「そうだねぇ、元気にやってたよ。シスとは相変わらずギスギスしてたけど」

「……シスもいるの?」

「あれえ? 聞いてなかった?」

「……あの子はあまり自分の話はしないから……」

「あ~……そうだね」



 シエテは何かを思い出したような顔で笑う。本当に、あの子は昔からそうだった。いつも一人で無茶をして、私に心配をかけないように大事なことを言わなくて。だけど、同じ十天衆の仲間のシスも同じ騎空団にいるならば、話してくれればいいのに。だけどシエテの言うように、二人は、というかカトルの方が一方的にシスを嫌っているから、仕方ないのかもしれない。
 本当に言いたいことがあるときは表情に出してくれるから、良いんだけど。
 だけど、もしかしたら私もそうだったのかもしれない。シエテがテーブルの向こうから私の顔をじっと見つめているから、私は自分の口元が微かに緩んでいたことを知る。隠すために、子どもたちが買い付けた紅茶を口にする。うん、前回よりも良い品だって言ってただけあって、香りが良い。
 カップから口を離しても、けれどシエテは私を眺めていた。居心地が悪くて「何?」と尋ねれば、彼は笑って「ちゃんって知ってる?」と、私の知らない女の子の名前を口にする。と言っても、会話の流れからその子が恐らくカトルが以前言っていた「自分を好きだと言ってくれた子」であることは想像に易い。



「カトルの恋人?」



 首を傾げながらそう言えば、「そうそう」と、シエテはその眦を細めた。



「どんな子かな~って思ってたんだけど、いい子だったよ。何か怯えられたけどね」

「……それはシエテが何かしたんじゃなくて?」

「そう言うこと言う~? 俺は普通に握手しただけだよー」



 その子からしたら距離が近すぎたんじゃないだろうか。そう思ったけれど、口にはしない。
 大して話題に乗ろうとしない私に、シエテは拍子抜けしたような目を見せる。カトルがその件について私に相談してくれたことは記憶に新しいけれど、以降の動向を、カトルは私にはっきりとは伝えなかった。気恥ずかしかったんだろうとは思う。私たちはそういう話とは無縁の世界で生きてきたから。
 どうなったのか気にならなかったわけではないし、カトルを好きだと言ってくれた子が一体どんな女の子なのか、私も知りたいという気持ちはあった。けれどカトルの選んだ女の子が「いい子」じゃないわけがない。興味はあったけれど、その点に関しては心配はしていなかったのだ。



「エッセルも今度、会いに行ってみたらどう? その間、街は俺に任せてさ」



 シエテの提案に、私は「ん……」と視線を落とす。
 カトルは、その子の前にいる間だけは普通の男の子でいられているのだろうか。年相応の男の子のように、その子を大切にしているのだろうか。だったら良いと思う。
 カトルは時折、酷く遠くを見つめている。私は自分の周囲から音が消えたような感覚に陥る。どれだけ互いに支え合っているつもりであっても、そういう時私は本質的にカトルの隣に立ってはいないのだろう。無音の世界の中、互いに別の物を見ていることを、私もカトルも察している。同じ胎から産まれても、思考までもを分かち合ったわけではないから。
 そうだね、そう口にしたとき、自分の口の中がからからに乾いていることを知った。



「……近く、一度会いに行くよ」



 私の言葉に、シエテは微笑んで「うん。そうすると良い」と言ってくれた。彼の笑顔に、私は自分が思っている以上に救われている。








 私たちの行き先が別々の場所になることも、きっとあるだろう。だけど、いつか道が別れたとき、カトルの隣に立っていてくれる子がいるんだとしたら、私は、もうそれだけで充分だ。







ラトレイア / 「灰色」「無音」「鏡」