とカトルが恋人同士になったということは、彼女からのノートで知った。
 の、普段より筆圧の強い字からもその喜び様は見てとれる。一体どういう過程を経てそうなったのか、というのは気になるけれど、一時的にカトルが星屑の街に戻ったとき、は何となく情緒不安定であるように思えたから、あの前後に何かきっかけになるようなことがあったのは間違いないだろう。
 一週間の不在を経てグランサイファーに帰ってきたカトルは、止める間もなくを連れ去ってしまった。カトルの方も、星屑の街で感情の整理をつけてきたのだろう。彼のお姉さんに何か助言をもらったか、背中を押してもらったのかな、と僕はあたりをつけているが、真実の程は彼にしか分からない。
 その日からは打って変わって笑顔が増えた。分かりやすいあの変化は、今思い出しても笑ってしまいそうになる。
 今日のノートには、「武器庫の整理、セルエルさんに手伝ってもらったおかげで早めに終わりました。セルエルさんって優しいね」と、以前よりは遥かに読みやすい字で書いてあった。彼女も随分と成長したものだ。がグランサイファーを降りたときに残していった手紙と見比べても、その字の上達ぶりが見てとれる。
 日に日に黒い部分が増えていくノートは、僕にとって宝物と言っても良いのかもしれない。彼女の書いた字を撫でながら、その成長を喜んでいる自分を自覚する。
 成長と言えば、ある意味カトルもそうなのかもしれない。彼は自分で意識はしていないと思うけれど、戦闘時は例外として、随分と表情が柔らかくなった。
 食堂でローアイン達と一緒に働く彼女を、彼はいつも目で追っている。僕の視線に気が付くと、彼は不愉快そうに目を細めるが、きっとそれも照れ隠しみたいなものだろう。



「……なんですか。団長さん」

「別に」



 彼の向かいの席に座って食事を摂り始める僕を、しかし彼は咎めない。
 カトルは黙々と食事を平らげ、僕が半分食べ終わるかどうか、という頃に席を立った。確かに僕の方が食べ始めるのは遅かったが、それにしても彼は食べ盛りの男の子よりは随分と食が細いように思えた。僕の視線で諸々を察したのか、トレイを片手にカトルはほとんど独り言のように呟く。



「小食なもので」



 種族間に於ける差異もあれど、彼は元々食が細いのだろう。
 それはカトルの生い立ちを思えば仕方のないことなのかもしれない。ほとんど脂肪の無いその後ろ姿を見送って、僕は彼の境遇を考える。同情するわけではない。それは彼の最も嫌うことであろうから。ただ、考えるだけだ。
 自分と同じような生まれの子どもたちを庇護するために力を得る。その彼の思想を、僕は否定しない。あまりにも思い詰めて無茶なことをしようとしたら、止めざるを得ないけれど。
 残りの食事を口に運んでいたら、何故か一度は立ち去ったはずのカトルがもう一度、僕の前の席に腰を下ろした。考え事をしていたせいで、彼が座る直前までその存在に気が付かなかった。
 ため息を吐く彼の手にあるのは、ヨーグルトだ。僅かに苛立ったように寄せられた眉根に、僕はつい「にもらったの?」と尋ねる。そうしながら調理場の方にいるに目線をやれば、彼女はカトルから受け取ったのであろうトレイを流しに持っていこうとこちらに背を向けたところだった。



「もう少し食べろ、だそうで」

「ああ、カルシウムは大事だしね。特にカトルは摂った方がいいかも」

「は? どういう意味です?」

「ほら、そういうとこ」



 僕の軽口に一度威圧的な目線を送ったカトルは、けれど直後に、本当に小さくだけれど、確かに笑った。
 やっぱりカトルは、随分と物腰が柔らかくなった。彼女の影響であることは間違いない。の天真爛漫さに、カトルが絆される。それを間近で見ることが出来るのは、団長である僕の特権だ。
 スプーンで掬ったヨーグルトを口に入れるカトルに、僕は思わず目を細める。初めてよろず屋で彼と会話をしたときの、空っぽの容れ物を相手にしていたかのような、手応えのない感覚はもうどこにもない。



「ねえカトル」



 咀嚼をしながら、目線だけで彼は僕に続きを促した。
 お兄ちゃんみたいに思ってしまうの。いつだったかが僕に向けて書いてくれたあの文章が、筆跡まで忠実に再現されて脳裏に浮かぶ。
 僕は君たちを祝福する。
 だから僕は、かつて、カトルに吐き出した言葉と同じものを再び彼に伝えるのだ。



をよろしくね」



 僕の大切な妹を。
 あの日、「は?」と聞き返したカトルは、それを思い出したのだろう。小さく笑ってから、僕にしか聞こえないような声量で「分かってますよ」と呟いた。