腰のあたりの違和感が凄まじい。
ローレンツくんが、その、抜いた?後も、そこはじんじんと痛くて、まだ異物感がある。自分の呼吸を整えた後、ローレンツくんは私の隣に横になった。そうしながらも気遣うように額を撫でたローレンツくんは私の前髪を分けて、ちゅ、と口づけを落とすから、無性に照れてしまう。へへ、と笑えば、ローレンツくんは何だか困ったような顔で笑みを返してくれた。
この寝台で、こうして向かい合うのは初めてだ。私達はいつもお互い端っこに寄って背中を向けて眠っていたから。勿論私の方は寝てる間に真ん中を占領したりしていたのだけど。
敷布は皺が寄ってしまっていたし、汗とかの体液も、たぶん、よく見れば染みを作っているんだと思う。でもローレンツくんの体温はぬくくて、気持ちよくて、痛みとか、ちょっとした不快感なんて些事にしか感じられなかった。
「ふふふ」
堪えきれずに笑ってしまえば、ローレンツくんは不思議そうな、だけどやっぱり困ったようなとしか形容できない瞳で私を見つめてくれる。その大きな手の平を引き寄せて、私はそれに頬ずりした。冷静になると、この手が、その、私にああいうことをしたって思いだして恥ずかしくなってしまうんだけど、それでもやっぱり愛おしかった。
ローレンツくんは諦めたようにその眦を細めると、頬ずりする私の皮膚をそっと撫でた。頬に、耳朶、唇の端、色んな所を触られるから、さっきまでのことを思い出してどきどきしてしまう。ああ、抱かれてしまったなあ、とうとう、って言うべきか、やっとって言うべきか。その時不意にローレンツくんが口を開く。掠れた声に、どきりとする。
「……つらいところはないのか?」
「な、ないです」
そりゃあ勿論、それなりには痛かった。でも本当に、それなりに、だ。初めてって、もっともっと痛いんだと思ってた。ガルグ=マクにいた頃ちらほらと耳にしたそういう話から得た情報によると、初めてってものすごく痛いって言うし、血も出るって聞いたから。
痛いよりも、きもちよかった、びっくりしてしまった、ローレンツくんに触られたところから、どろどろと溶けていくみたいで。奥の方、ぐりぐりされるの、すごくよかった。かゆいところに手がとどく? いや全然ちがうな。でもよくわからないけど、泣きたくなるくらいにあったかくて、満たされてしまったのだ。
なんだかお腹のあたりがきゅうとなって、もぞりと下半身を動かせば、中からどろりと何かが出た感触があって、はっと目を見開いてしまう。「な、なんか出た」と素直に口にした私に、ローレンツくんは頭が上手く回らなかったのか、一瞬目を伏せる。
だけどそれからが早かった。弾かれたようにばっと起き上がった彼は部屋に片付けてある手巾を一枚取ると、水差しの水でそれを湿らせてから私の下半身の傍に膝をついた。彼が何をしようとしているのかを考えるよりも早く、それは私の内ももを拭っていく。
「ひえっ?」
「すまない、汚してしまって」
「わ、つ、つめた」
「我慢してくれ、気持ち悪いだろう」
「んん、や」
気持ち悪いとかその前に、そんなところを拭かれていることそれ自体が恥ずかしい。身を捩って逃げようとする私に気がついているのか、いないのか、ローレンツくんは私から溢れたそれをきれいに拭い取ると、はあ、と長く息を吐いた。太股の表面を撫でるローレンツくんが何を考えているのかを分からないほど、私は鈍くはない。
右足に薄く残った傷跡を、私が自分の力でなくしてしまうことはできない。だから、ローレンツくんはこれからもずっとこれを見る度に、後悔とか、そういうのに苛まれてしまうんだろう。そのときの彼が見せる双眸の色を知ってしまった私は、もう、二度とこれを名誉の勲章だなんて口にはできないな。
身体を起こして、ぎゅうとローレンツくんにしがみつく。腰は重くて怠かったし、異物感は取れなかった。相変わらず私だけが裸なのも恥ずかしいし、早く服を着てしまいたい。
でも、その前にローレンツくんにくっつきたかった。その心臓の音を聞きたかった。彼の胸のあたりに顔を埋めると、それはとくとくと脈打っている。それがなんだか、信じられないくらいに嬉しくて、私は彼の身体に回した腕に一層力を込めてしまうのだ。
ローレンツくんの身体は、華奢だ。服を着ていてもその細さがよく分かる。でもしっかりと必要なだけの筋肉はついていて、男の人らしい。私とは違う。埋めた胸に擦り寄れば、ローレンツくんが再びため息を吐いた。さっきのものとは違う、何だか熱っぽい息だった。
「煽ってるのか?」
「あお?」
「…………そうだな、君はそういうやつだ。無自覚に僕を困らせる。昔から」
「昔からぁ?」
それは聞き捨てならない。私はローレンツくんに「大丈夫だよ」って言いたかっただけだったのに。む、と眉を寄せてしまう私の眉間に、ローレンツくんは笑いながら口づけを落とす。ちゅ、ちゅ、と音を立てて、それは瞼の上や目尻、鼻の頭、唇の端、丁寧に啄むようにしてくれるから、ぞくぞくしてしまう。それがとうとう唇に重なったとき、私は本当は首がものすごく痛かった。身長差があるせいだ。こっそり体勢を直して口づけがしやすいように調整すれば、ばれてしまっていたのか、く、と笑われてしまって、恥ずかしい。
目だけで非難する私に、ローレンツくんはほとんど宥めるように私の頬から耳、側頭部にかけてを撫でた。あったかくて、包まれてるみたいで気持ちいい。ローレンツくんの指、好きだ。
ローレンツくんの口づけって、結構長い。息が続かなくなってしまうのだ。口づけの合間に空気を求めようと顔を逸らすのに、だけどローレンツくんは逃がしてくれない。「ん、ちょ、ま」と逃げようとしても、追いかけてくるのだ。しつこいな。
顎を掴まれて固定されて、腰を押さえられる。痛くないけれど、逃げられないくらいの絶妙な力加減で。慣れてるような感じになんとなく納得いかないような気持ちになりながらも口づけを受け入れて、ようやく解放されたときにはもう頭がふらふらしていた。力が入らなくて、ローレンツくんの身体に頭を預ける。
「……もう今日だけで一生分くらい口づけした気分……」
なんとなく思ったことを口にしただけだったのに、ローレンツくんは「これが一生分?」と尋ねる。
「一日分だよ、こんなのは」
薄く微笑んでそんなことを言うものだから、心臓が止まるかと思った。
顔を隠すためにローレンツくんに抱きつく。ああ、やだやだ、こんなにどきどきさせられるなんて、学生のときは思ってもみなかった。くつくつと笑うローレンツくんに抗議の意味を込めて額をぐりぐりと擦りつける。やっぱりローレンツくんには敵いそうにないのが、私はものすごく悔しい。
の一挙一動に僕が自分の感情を揺さぶられていることを、彼女はきっと気がついていないんだろう。
裸のまま僕にしがみついて額を押しつけてくる彼女に、ぐらぐらとしそうになる自分をどうにか抑えながら、その長い髪を指で梳く。
これまでもそうであったように、僕達はきっとまたすれ違ったり、喧嘩をしたり、無視をしたり、されたり、そういうこともあるんだろう。だけど、それでもきっと大丈夫だ。僕の愛を
が知っているように、僕も
の愛を知っているから。
ふと気がつけば、
が僕を見つめている。首を傾げる僕の口目掛けて反撃とでも言わんばかりにがぶりと噛みつくような口づけをした
を、僕はやっぱり愛おしく思ってしまう。
おしまい!