やらなくてもできる誠士郎くんはやればもっとできるのに、全然その気にならない。
なまじ器用で優秀すぎる分、手を抜いていても平均から大きく突出してしまうのが原因なんだと思う。それと、あとは本人のやる気の問題。でも誠士郎くんから大きく欠けたそれが彼にもしあったとしたら、きっと色んなバランスが崩れてしまって、それは誠士郎くんを誠士郎くんではない何者かにしてしまうんだろう。やる気満々の誠士郎くん――想像ができなくて、考えるのをやめた。今よりも誠士郎くんが遠くに感じられてしまいそうで、ちょっと怖かったのだ。
誠士郎くんは昔からなんでもできたのに、本人にやる気がないせいで本来の彼が持つ輝きごと濁って霞んで、有象無象に飲み込まれてしまう。だから私は誠士郎くんが誠士郎くんで良かったって思うのと同じくらい、なんて勿体ないんだろう、とも思う。スピーチ大会も読書感想文も部活の全国大会も、誠士郎くんが本気を出せば総なめできるくらいの力を持っているって知っているのは、幼馴染みの私だけだった。彼から時折滲み出る一瞬の閃きを余さず拾い上げられる距離にいる、私だけだった。
「誠士郎くんが本気出したら私なんかよりも絶対すごいのに」
スピーチ大会でも読書感想文でも部活の全国大会でも賞状をもらった私は訴えるけど、誠士郎くんはゲームをしながら「え、無理」って短く言う。賞状に箔押しされた金箔のピカピカと、「様」って書かれた自分の名前は、本来の一番ではないって分かっている分、どこか空虚だった。その空虚さは私の薄皮を滑り落ちて、いつも足元に淀みのようなものを作っていた。ただ、それは嫉妬でも憎しみでもなかった。どうしようもない、憧憬だった。
私は知っている。誠士郎くんが私よりもずっと「できる人」だってこと。スピーチの原稿をちらっと見ただけで「ここ、こっちのほうがよくない?」って気まぐれに修正してくれたその表現を、先生も審査員の人たちも物凄く褒めてくれた。白宝高校を受験するなら、って先生が私に寄越した問題集の中で私がわからなくて困っていた問題を「こうでしょ」って解いてくれた。すごいすごいって感動する私に「え、こんなん普通に解けるでしょ」って言うから、ちょっとそれは、深めに刺さって痛かったけど。
誠士郎くんは志望校だって出願ギリギリまで決めなかった。「結局どうしたの?」って聞いたら、「高校ガイドのテキトーに開いたページにあった学校にした」って言った。流石に冗談だと思ったけど、冗談じゃなかったらしい。後でそれが私と同じ、東京の白宝高校だって知ったときはびっくりしすぎて三回くらい聞き返しちゃったけれど(誠士郎くんの方は「え、もここ受けるんだっけ」って、何回も教えたはずのそれを脳から消していて、ちょっと腹が立った)。なんでもさっさと稼ぎきって早期退職し、それから悠々自適の生活を送るために、良い学校に行きたいって思ったらしい。誠士郎くんらしい。それで偶然志望校が同じになるなんて、私からしたらできすぎていて、神さまに感謝したいくらいだったけれどね。
私が夜遅くまで勉強しても、過去問を暗記するくらい解き直しても、誠士郎くんは「えらー」って言うだけでほとんど勉強しなかった。それであの白宝高校に軽々受かっちゃうんだから驚きだ。同じ代から二人も白宝高校へ進学者を出したうちの中学はお祭り騒ぎだったけれど、誠士郎くんは何の興味も無いみたいで、白宝から出された入学前の課題にも一切手をつけず、私の部屋に入り浸ってゲームばかりしていた。その隣で真面目に課題に取り組み、その難度の高さに唸る私を、誠士郎くんは、気にも留めなかった。
「あー、なんか下からカレーの匂いするー」
ぼやきながら人のベッドで寝返りを打つ誠士郎くんは、私がもうずっと誠士郎くんに片思いしていることを知らない。春からも同じ高校に通えることを心底喜んでいるってことを、知らない。
「ママ、今日も誠士郎くんに夕飯食べてって良いよって言っといて、って言ってたよ」
「え、マジ。ラッキー。ママのカレーすきー」
「私もすき!」
私たちは幼馴染み。
その輪っかに入って生まれてこれただけで、私はもう一生分の運を使ったなって思っている。
白宝高校に入学の決まった私たちはそれぞれ、学生寮に入寮することになった。
男子寮と女子寮とは少し距離があって、女子寮は学校と男子寮の丁度中間地点くらいにあった。誠士郎くんはそれを知ると「え、ずる。俺も学校に近い方が良いんだけど」って実に誠士郎くんらしい不満を漏らした。
男子寮の方が新しいし、設備もしっかりしているって言うし、私はそっちの方が羨ましいけどな。でも誠士郎くんは、「絶対ギリギリまで寝てられる方が良いでしょ」って首を傾げていた。その横顔には私の良く知る誠士郎くんの面影が残っていて、それだけでこれからの生活における不安も緊張も、みるみる小さくなったのだ。私は早々、ホームシックになりかけていたらしい。「誠士郎くんが一緒なら安心だわ」って、カレーを黙々と食べていた誠士郎くんに言ったママを思い出した。ほんとに、そうみたい。私の心境を知ってか知らずか、「あーあ」って、誠士郎くんが言う。
「俺、女だったらよかったな」
「わは」
誠士郎くんの言葉に思わず笑った私を、誠士郎くんは不思議なものでも見るみたいな目で見ていた。それだけで私は自分が、誠士郎くんと手を繋いでいた幼い頃に戻ったような気がした。入学式を間近に控えた四月のはじめだった。白宝高校に続く通りに植えられた桜は、私たちを祝福するみたいに咲き誇っていた。
以降一年間、誠士郎くんと直接話をする機会が一切ないなんてこと、この時の私は想像もしていなかったのだ。
怒濤の日々だった。
覚悟はしていたけれど、白宝高校の授業は速い。難しい。――そして、兎に角密度が濃い。周囲は私以上に頭の良い人だらけで、教師陣は彼らに合わせた質の高い授業を行っていた。凡人の私は篩い落とされないようにするだけで精一杯だった。
私がこっそり依頼心を抱いていた誠士郎くんとはクラスが離れてしまって(しかも、教室は同じ棟の端と端だ。そうなってしまうと最早、校内ですれ違うこともなかった)、彼がどんな風に過ごしているのかなんかもう知る由もない。誠士郎くんからの連絡なんか、勿論なかった。私から誠士郎くんにスマホで連絡を取ったって、元々そういうやりとりを面倒臭がる誠士郎くんは良くて数時間後、最悪数日後にスタンプ一個で返すだけだったから、結局私も彼に何も送らなくなってしまった。鬱陶しいって思われるのが嫌だったのだ。
疎遠になる、ってこういうことを言うんだと思う。慣れない東京での暮らしだったけれど、私は休みの日に遊びに出かけるくらい仲の良い友達も出来たし、中学と違って、男子ともそれなりに喋れた。地方出身の、寮生の友達だってできた。テスト前は勉強会を開いて、花火も見に行って、球技大会ではクラス一丸となった。そこに誠士郎くんの影は一つもなかった。誠士郎くんは今も、私の二倍もある通学路を寝ぼけ眼で歩いているんだろう。私の日々に誠士郎くんが存在しないように、誠士郎くんのそこにも私はいない。それが本当は、少し寂しい。
去年白宝の合格発表に飛び上がって喜んでいた私は、こんなことになるなんて想像もしていなかった。少なくともあと三年は、誠士郎くんが隣にいてくれるって思っていた。だから、現実はこんなもんか。って思う。交友関係がぐんと広がって、互いが互いを置きざりにして進むしかなくなってしまう。
それでも私にとっての誠士郎くんは、今も特別だったのだ。誠士郎くんにとってはそうじゃなくっても。私は今も誠士郎くんが好きだった。やる気がなくて、私のベッドでごろごろしてそのまま寝落ちできるくらい鈍感で、それで、いつまでも私のことを特別扱いしたりしない誠士郎くんが好きだった。
そういう星の巡りなのか、二年生になっても私と誠士郎くんのクラスは別々だった。同じ棟の端と端の教室から、隣同士にはなったんだけどね。
だから、「凪誠士郎」の噂話を、私はそのときにはしょっちゅう耳にしていた。曰く「凪誠士郎と喋ると不幸が訪れる」。或いはその逆。「ご利益のある歩くパワースポット」だとか、なんとか。まさか幼馴染みがそんな扱いを受けているとは思っていなかったから、びっくりしてしまった。誠士郎くんは教室で、酷く浮いているみたいだった。万年寝太郎って呼ばれているのも、何度か聞いたことがあった。
ねえ、誠士郎くん。好き勝手言われてるけど、いいの?
送りかけたメッセージは、結局送信前に消してしまう。私たちのトークルームは半年前、誠士郎くんが送ってきた宇宙人みたいな何かが「万事休す」って倒れている、良く分からないスタンプで終わったままで、私はもうこれがそのまま何年も何年も冷凍保存されて残り続けるんじゃないかって思っている。私の耳には今も、最後に誠士郎くんが言った「女だったらよかったな」が残っていて、私はいっそ、本当にそうだったらよかったなって、思ってしまうときがある。
そうしたら少なくとも、今みたいにはならなかったよね、って。現実逃避でもするみたいに。
「隣のクラスに凪誠士郎っているじゃん? どういうヤツか知ってたりする?」
同じクラスの御影くん(あの御影コーポレーションの御曹司で、途轍もない有名人だ)にそう尋ねられたのは、二年生になって間もない五月のある日のことだった。
もしもその時私が友達と一緒に居たら、私は皆に合わせたはずだった。「知らない」でも、「歩くパワースポットでしょ?」でも、なんでも、臨機応変に。だけどその時私は偶々一人で職員室から出てきたところで、御影くんの真っ直ぐな、信念の籠もった双眸に、取り繕うことができなかったのだ。「私、中学一緒、っていうか、幼馴染み……です」って漏らした私に、御影くんは「マジ!?」って声をあげた。この人に嘘をつける度胸のある人なんて、この白宝高校にはきっといなかった。
「あ、そっか。さんも確か寮生だったもんな。凪と同郷か」
「うん、そう、神奈川」
「へー神奈川! 女子で寮って大変じゃね?」
「そうでもないよ、案外楽に過ごしてる」
御影くんはどうやら、誠士郎くんに興味があるらしい。(詳しい話は端折るけど、と省略されてしまったため、一体何があったのかはわからないんだけど)誠士郎くんにサッカー部に入ってほしいんだって。全然御影くんと誠士郎くん、それからサッカーと誠士郎くんがどうしても結びつかなくて、思わず「えっ」と声をあげてしまった。
「サッカー? せい……じゃなくて、凪くんが?」
「そーそー。つかあの身体能力、スゲーよな。凪、昔スポーツやってたとかあんの?」
「え、うーん、特別何もしてなかったけど……」
でも、誠士郎くんが運動神経もズバ抜けているのは確かだ。やる気がないせいで気付かれにくいけど、反射神経とか、すっごく良いんだよね。以前私が部屋の姿見に足をしこたまぶつけて倒してしまいそうになったときも、私のベッドでゲームをしていた誠士郎くんが咄嗟に伸ばした足で倒れかけた鏡を押さえてくれたことがあった。「――うわ、あぶな」って、全然切迫めいてない声で言う誠士郎くんは、頼もしくて、かっこよかった。
そういうことを話したら、御影くんの表情はぱあって明るくなって、「そうそうそういうとこ! やっぱ幼馴染みってだけあってわかってんなー、さん!」って言われてしまった。誇らしくなってつい、「へへ、でいいよ」って口にする。ちょっと急に距離を詰めすぎたかも、って言ってから思ったけれど、交友関係の広い御影くんは何の逡巡もなく「オッケー、な? 俺も玲王でいいよ」って笑ってくれたから、ほっとしたのだ。
「幼馴染みトークおもしれー。良かったらまた聞かせてくれよ。聞きにくるからさ」
こういうところが、御影くん――玲王くんが誰からも好かれる所以なんだろう。
リップサービスかと思ったけれど、玲王くんは宣言通り、それからもちょくちょく私に誠士郎くんの話をふってきた。好物は何か、とか(うちのママのカレー、っていうのは飲み込んで、レモンティー、って言った)、スポーツは観るほうも興味ないのか、とか、兄弟はいないのか、とか。でもそれが続いたのは、ほんの数日。玲王くんは元来の押しの強さで、あの誠士郎くんをあっという間にサッカー部に引き摺り込んでしまったらしい。その報告と一緒に、「、マネージャーとか興味ねえ? 募集してんだけど」って聞かれたけれど、そういう社交辞令だと思って「やー、できないよ!」って笑いながら言った。サッカーなんかルールも知らなかったし、そうじゃなくても今更、マネージャーとして誠士郎くんの前に立つ自分は全然想像できなかった。
「せ……凪くんのこと、よろしくね。玲王くん」
幼馴染みって、きっとこうして少しずつ離れていって、そのまま永遠に元には戻れないんだ。同じ高校とか、そうじゃないとか、物理的な距離とかに関係なく。
そう思ったのと、「ねえ」って声をかけられたのはほとんど同時だった。私はそれが、誠士郎くんの声だってすぐには気がつかなかった。
レオの「サッカーやろうぜ」に根負けした覚えはなかったけど、いつの間にかサッカー部に入らされてたんだから、レオってやり手だ。サッカーなんか体育でしかやったことないし、ルールもよくわかんないのに、それでいいんだって。変なやつ。
顔も性格も、なんなら性別だって違うのに、レオといるとを思い出した。俺を変に評価するってところだけ、二人は合致していたから。もこういうとこあったよなって、レオに「すげーじゃん凪!」って言われる度思い出す。「誠士郎くん、すごーい!」って、も良く俺にそう言ってた。立式ミスの指摘とか、に向かって倒れかけた鏡を足で止めたのが「すごい」って、意味わかんなかったけど。でもそうして思い出すだけで、ゲーム以外ではこの一年ほとんど動かなかった胸の内側あたりが、疼くような気になる。そういえば、、元気かなって、ぼんやり思う。
同じ学校にいるってのに、クラスが違うと案外顔を合わせることがない。校舎、広すぎ。学校、でかすぎ。話すことも別にないから、わざわざ連絡する気も起きなかった。帰省のタイミングが合えばもしかしたらそういう機会もあったのかもしれないけど、そもそも面倒臭くて帰ってないし、機会とかそういう問題ですらなかった。……あーでも、そろそろママのカレーが恋しいかも。肉と野菜が細かくて、咀嚼が面倒じゃないやつ。ほとんどスープみたいだった。
学校の昼休み、トイレからの帰りしな、窓から差し込む光の加減で思い出す。んちのダイニング。うちと違って、いつも灯りがついていて、窓でっかくて、いつもなんかの花が飾ってあって、ママの料理はなんでも美味しかった。あのぬくさが好きだった。なにもかも、なつかしかった。
そんなときに、の後ろ姿が視界に入ったのだ。
あ、と思った。ラッキー、いんじゃんって。
今が何組なのかとか全然知らないけど、こんなとこで出くわすってことはもしかしたらクラス替えで教室が近くなったのかもしれない。話しかけよ。そんで、キンキョー報告でもしよ。サッカー部に入ったこととか、に似て俺を過大評価してくるやつがいるってこととか。あと、今度いつ帰るのかとか、それに合わせて俺も帰ろうかなって思ってることとか。カレー食べたくない? とか。話したい。――そう思って近づいたから、が楽しそうに誰かと話していたこと、その相手がレオだったことに気がついて、ちょっとビックリした。あれ、そこ知り合いなんだ? って。
気がついたら、いつもは十歩かかるくらいの距離をその半分で詰めていた。だってが、レオのこと「玲王くん」って呼んだくせに、俺を凪って言ったのが聞こえたから。「凪くんのことよろしくね、玲王くん」って。は? って思った。なに、俺、誠士郎くんじゃないわけ、って。んで、レオによろしくするわけ? って。んだそれ。大股で歩く俺が視界に入ったのか、レオがこっちを見る。その口が開いて俺の名前を呼ぶよりもはやく、「ねえ」って呼んだ。
「二人で何話してんの?」
が振り向くよりも先にその背後に立っての頭に顎を乗せた俺に、レオは多分、ちょっと引いていた。
頭の上に人の顎が乗せられた気配があって、息が止まるかと思った。
その直前の「二人で何話してんの」って言葉が誠士郎くんのものだったって分かっても尚背中の存在と彼とが結びつかなかったのは、この一年あまりの、どこか茫漠としていた日々のせいだ。消滅していた接点のせいで、私は誠士郎くんが今私にしていることが、信じられなかった。目の前の玲王くんが「おいおい何やってんだよ凪」って笑ったから、それで私はようやく、背後でほとんど密着するように私の頭に顔を乗せているのが本当に誠士郎くんだって認めた。でも本当は、悲鳴をあげる寸前だった。一気に顔が熱くなった。肩の上から腕が伸びてきて、緩く抱きつかれるような形になったのが、意味がわからなくて。
記憶の中の誠士郎くんよりも僅かに低い声で、彼は尋ねる。
「――なに、二人、知り合い?」
「いや、普通にクラスメイトで――っておいおい、潰れるって。体格差考えろよ凪」
「えー、加減してるし……」
「いや、お、重い重い、つぶれる」
本当はそんなことなかったし、誠士郎くんが加減してくれてるのも分かっていた。でもそう口にしたのは、周りの人からじろじろ見られていたからだ。玲王くんと話しているだけでも注目を浴びてしまうのに、そこに「歩くパワースポット」ないし「話すと不幸になる男」までいるとなると、どうしても目立ってしまうから。
でも誠士郎くんは私を離してくれなかった。むしろ顎にぐって力を入れられて、頭蓋に鋭い痛みが走る。そのあまりの痛さに「ねえ、い、痛いってば誠士郎くん」って、つい昔みたいに言ってしまった。本当に痛かったのだ。冗談じゃなくて、ものすごく。
私の訴えが伝わったのか、それから数秒考え込む様な時間があって、ようやく解放された。わけがわからなくて、ちょっと怒りたくて、振り返った。誠士郎くんの顔を見上げて、それで――懐かしさに、泣きそうになったのだ。
色素の薄いふわふわの毛、身長も、見ていないうちにまた伸びたんだろうか。感情に乏しい双眸はだけど私を真っ直ぐ映していて、それがあんまりにも懐かしい。誠士郎くんだった。ちゃんと、誠士郎くんだった。何か言葉を吐きたくて、だけど、吸った息は喉にはりついて、どうにもならなかった。久しぶり、も、元気だった? も、全部どこかに霧散して、私の身体の中に飲み込まれてしまったみたいだった。
まじまじと私を見つめていた誠士郎くんは、昔みたいに首を傾げる。
「――え、なんか、縮んだ?」
縮むわけないじゃん。
怪訝そうに寄せられた眉にどうしようもなく腹が立って、つい気安く体当たりしてしまったけれど、体幹のしっかりした誠士郎くんはびくともしなかった。一年の空白期間なんかどこにもなかったみたいにそんなことをしてしまう自分に、本当は少し、びっくりしていた。
なんだその牽制じみた行動。
と喋ってただけだってのに、凪はあからさまにむっとした顔で俺を見ていた。幼馴染み、ってからは聞いてはいたけど、どうも俺が思っていたような、普通の幼馴染みってわけじゃないらしい。特に凪の方は。
二人を突っついてみたくて、つい「今にマネージャーやってって頼んでたんだよ。でもなかなか頷いてくんなくてさ。……凪からも言ってくんね?」って口にした。そんときのの驚愕した顔なんて、普段の教室じゃなかなかお目にかかれないレベルだったよな。
俺の言葉に瞬きを一つした凪が俺からに視線を移して、「え、なんで? やりなよ」って言ってるのも、俺が頼んだときと違ってそれにたじたじになるも面白くて、つい息だけで笑う。マネは最悪いなくても良いとは思っていたけど、ちょっとでも凪がやる気になってくれるんだったら、そりゃあいてくれた方が良い。
凪に詰められて困ったのか、「た、助けて玲王くん」って振り向いたは、それが逆効果だって分からないんだろう。表情の変わらない凪の周りの温度が分かりやすく下がった。諦めた方がいいよ、。お前が思ってるより、凪、独占欲強いみたいだから。
凪の「マネージャーやってよ、」に半泣きになったがとうとう頷いた瞬間、わかりやすく目を細めた凪が面白かったのもあってうっかり声に出して笑ってしまったけれど、他意はなかったんだ、ほんとに。